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会社人問だった夫が
井口良子(妻)
■社長からの解雇通告
九八年九月一〇八日(金)、夕食の支度のために台所に立っている私に、帰宅した夫は、「今日、社長に変な事を言われた」と話しかけて来た。この変な事が、解雇通告だとはすぐには理解できなかった。しかし、いろいろ話していくうちに、ただならぬ事態である事に気付き始めた。夫に、「○○さんに電話したの?」と聞くと、「電話したけれど後で電話するから」と言われたと言う。○○さんとは、夫が四年前この会社へ入るに当って、口をきいてくれた人である。月曜日、夫は出社して社長に昨日の事を再確認すると、「事実である、 一度口にした事を変える事はできない」それではと、解雇理由を聞くと、誰が聞いても納得できるものではなかった。そして○○さんなら何か知っているのではないかと、電話を待っていたが掛かってこず、こちらからも数回掛けたがかからなかった。もう何がなんだかさっぱりわからず、不安が増してくるばかりであった。まして、土・日曜日をはさんでいるのであるから余計である。どうして良いのか、誰に相談すれば良いのかわからず、何も手に付かない状態であった。とりあえず、翌月曜日、私は市の雇用問題相談所を訪れた。そこでの結論は、この様な理由では解雇はできない,しかし争っても結局は負けになる。それよりも少しでも退職金を多くもらってやめた方が得策であるという事であった。
夫と共に管理職ユニオンへ、その間,夫は一たん出社した後、入社以来初めて有給休暇を取り、市役所の相談窓口や、労働基準監督署へ相談に行った。そして、たまたまテレビで管理職ユニオン・関西の電話番号を
知り,藁をもつかむ思いで電話をしたのである。台風の最中、夫と私はびしょ濡れになりながら事務所を訪れた。一応のいきさつを、仲村書記長に聞いて頂き、入会の手続きをしたのである。その後は,二回の団体交渉の場を持ち、会社側の解雇理由はころころ変わったが、結局、夫が引き下がる事で和解し今まで通り勤務できる事になった。
一ケ月間に及ぶ,ドタバタ劇は終わった様に見えた。ところが、安心したのも束の間、それ以降の方が、もっと事態が悪化しているのが現状である。
■いじめに負けない夫の強さ
仕事は取りあげられ、無視・難癖をつける・誹誘・中傷・差別・いじめ等日常茶飯事である。例えば,新しく入ったアルバイトの人や、派遣社員に、「井口は共産系だから口をきくな」、「井口と話をするな」等と釘をさす(夫は共産党とは、なんら関係はない)。仕事を手伝おうとすると「手出しをするな=‥」、外部の人に、「井口はやめさせる」など・・・・・・、ピケしてこの事が分かるのかと言うと、言われた当人達が夫に話してくれるからである。そして、彼達も、余りにも陰湿で異様な雰囲気に、唖然としてやめていき、次に入って来た者に対し「今までやめていったのはみんな井口の所為である」と聞かせ、夫と接触させない様に仕向ける。一人黙々と、わずかばかりの仕事をし窓ガラスを磨かせられたり、事務所の掃除をして一日を過ごしているのが現状である。
くやしいだろう、歯がゆくてたまらないだろう、ストレスに押し潰されるのではないかと、ハラハラしてしまう。帰宅するや否や今日一日会社であった事を、逐一聞かされるのが日課となってしまっている。誰よりも仕事熱心で、そればかりか、会社に損失等迷惑を掛けた事は一切なく、無遅刻無欠勤、取引先の人にも信頼されている夫が、どうしてこのような目に遭わなければならないのか、私なら、とっくに投げ出しているだろうに、我が夫ながら、このねぼり強さには感心している。
■社員をうまく使いこなせない経営者
もっとも、意地もあるだろ.うし五〇歳も半ばになった男に、おいそれと次の就職先が見つかる訳もない。家のローンもまだまだ沢山残っているから、やめる事ができないのも現実であるが。
この様に夫の事を心配する一方で、不信感が、募ってくるのも事実である。解雇問題が起こるのも、一人一人事情が違うはずである。しかし、誰も口では自分の方には絶対に非はない、悪いのは相手の方であるといきまいていても、解雇に直接結び付かなくても、冷静になって考えてみると、心証を悪くされる様な事が、 一つ二つ思い当るのではないか--。会社といえど、人間対人間の社会である。正論や正義感だけではギクシャクしてしまう。弱者には弱者の、頭の余り良くない者にもそれなりの理屈や言い分がある。何時も会社のためを思い、正しい事を考えている自分は間違っていないと思いがちであるが、ちょっと視点を変えてみるのも必要ではないだろうか。まして、上司ともなれば、プライドも相当なものだろうから。上司のプライドを傷つけない様にしてお互いに向上しあうのが、本当に頭の良い者のやり方だと思う(言うは易し行うは難しで簡単でない事は充分分っているが、非難ばかりしていても仕方がない)。
今、私自身、パートとして働いているが、仲間は皆、中年以降の女性であるが、前歴も異なり考え方もまちまちで、ぶつかり合う事も度々あるが、長所を認めあい、おだてあって共に木に登る豚である事を知りつつ、認められれば悪い気はしないもので何とかうまくやっている。
パートのおばさんの世界とは違うだろうけれど少しは参考になるのではないだろうか。
入社するには、入社テスト、面接等というフルイにかけられ、この企業で働く仲間として認められた者である。企業側は、自分達で認めた人間を使いこなすだけの能力がなければならない。使いにくい、こんな人間だとは思わなかったからやめろでは世間は通らない。うまく使いこなすのが雇う側の義務であり責任である。それができないのは経営者として失格である。入社テストがある様に人を雇う側にも、その能力があるかどうか、一線のラインをもうけてテストの様なものがあれば良いと思う。親から会社を受けついだ二代目三代目で努力してなった者でない場合は、なおさらである。この過酷な時代、大企業でも生きぬいていくのは難しい。まして零細企業は常に危機に見舞われている。もし倒産等という事になれば、日頃の収入の低さも影響して蓄えも少ないだろうから、すぐ生活にひびいて死活問題である。
夫は、今の小規模の会社へ入るまでは、三〇年間証券マンとして働いて来た。バブル崩壊で仕事を変えざるをえなかったのであるが、営業マンという仕事は、人間同士の信頼関係がもっとも重視される。だから人付き合いには自信があったはずである。それなのに--常日頃、夫の言動を見聞きしている私には、会社一辺倒で、今の時代にはそぐわない、バカじゃないだろうかと思わせる程であったが、この件が起きて、管理職ユニオンに入会し、労働条件等いろいろ勉強しているうちに、夫の考え方がだんだん変わって来ている。労働者としてあたりまえの権利を、身をもって実感しているようである。
夫は相手側が非を認めるまで、とことん闘うと断言している。多少血の気の多い方である私は、夫の言い分を丸のみしている訳ではないが、今となっては気のすむまでやれば良いと思っている。でもやっぱり、家にはローンもたくさん残っている、結婚前の子供が三人もいる、蓄えもない、人並みに海外旅行もしたい、もうそろそろ趣味にも没頭したい、ないないづくしの現状では将来に希望が持てない。「どうしてくれるのヨ、信頼を売るのがあなたの仕事じゃなかったの、うまくやってよお父さん」「そうじゃないと、もう私キレソウ」本当に本当に出口の見つからない難しい問題である。五五歳、固くなった頭を少しやわらかくして、体調に気をつけて頑張ってネ、応援してるから‥
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私たちは、あらゆる不公正・いわれ無き格差と戦います。
